開発に協力した和歌山大学教育学部附属小学校教諭のインタビュー(2020年度)
海洋プラごみ問題に取り組む、和歌山大附属小のSDGs活動
SDGs推進に関する連携協定を締結している花王株式会社と和歌山市がSDGsの推進への取組として始めた、海洋プラスチックごみ問題を題材とした授業プログラム「ごみゼロチャレンジ」が、2020年度、和歌山大学教育学部附属小学校5年生のクラスで行われました。今回は指導にあたった中山先生に本プログラムの特徴や実施状況、子供たちが学んだことなどを伺いました。
<プロフィール>
和歌山大学教育学部附属小学校 中山和幸 教諭
「ごみゼロチャレンジ」って、どんなプログラム?
――今回「ごみゼロチャレンジ」に取り組むことになったきっかけを教えて下さい。
2020年の春頃、「SDGsに関わる教育プログラムをつくるので参加されませんか」と、お誘いをいただいたのがきっかけです。
私は社会科の教員として、以前より持続可能な開発のための教育、ESD(Education For Sustainable Development)に取り組んでおり、海洋資源保全について、例えば漁師さんが資源を守りながら漁をしていることを実践プログラムに取り入れるなどしてきました。「持続可能」というテーマは、これからの子供たちにとって大切なことですし、私自身にも興味のあるものでしたので、喜んで参加を決めました。
――「ごみゼロチャレンジ」とは、具体的にどのようなプログラムなのでしょうか。
「ごみゼロチャレンジ」は、海洋プラスチックごみ問題に取り組むことで、子供たちが自身で考え、課題解決する力を育んでいく学習プログラムです。
大きく2つのステップで構成されており、ステップ1では海洋プラスチックごみ問題が身の回りで起きているということから学習を始めます。具体的には子供たちが自分の家から出るプラスチックごみを調べ、その量や種類について話し合いをしながら、海プラ問題を“自分ごと化”していきます。さらに和歌山市環境部の方や、花王の方などから、ごみ処理やプラスチックごみ減量についての授業をしていただき、実情を知ってから、自分でプラごみを減らす「マイチャレンジ」に取り組みます。
――ステップ2ではどういう取組を行うのですか?
ステップ1に取り組むうちに、子供たちは「これは自分たちだけがマイチャレンジを続けていても、海プラ問題は解消されないのでは」と気づいていきます。そこでステップ2では、海岸クリーンや海洋ゴミ調査などを実践しながら、海プラ問題をより多くの人に啓発するための発信活動を行います。
――どのような方法で発信するのでしょうか。
子供たちが話し合い、いろんな案が出た中から動画とポスターを作ることになりました。動画は映像のプロの方にもご協力いただきました。
実践プログラムで子供たちが得るもの
――実際にプログラムを始めてみて、子供たちの様子はいかがでしたか?
子供たちの意識がガラリと変わったと感じたのは、12月に行った海岸クリーン及び海洋ゴミ調査の実習です。それまで授業や外部の方のお話を聞き、知識としては学んできたのですが、実際に海岸へ行くとタイヤやエアコン、外国語が書かれたお菓子の袋などがたくさん落ちていました。それらを目の当たりにすることで、海プラ問題の規模の大きさや、解決するために自分たちが何をしなくてはいけないのか、という問題意識が明確になったように思います。
――それが啓発活動へとつながっていくのですね。
そうですね。伝えるべきことができたことで、子供たちの意欲も一気に高まったと思います。
――発信活動は子供たちにとって、どういう意味があると考えますか。
2つの点があると思います。まず1つは、自分の考えや想いを“伝える”ということの大切さを知ること、そしてそれを実行するスキルの向上です。今年度のクラスは控えめな子が多く、なかなか自分の想いを主張することが少なかったのですが、発信活動を通して「何をどうしたらより伝わるのか」ということを自分たちで考え、実行する経験ができました。
もう1つは社会参画の経験です。子供たちは社会問題の多くを「子供の自分には関係のないこと」と考えがちです。ですが、動画やポスターを作って多くの人に見てもらう活動を通して「自分たちの力で世の中が変わっていく」という実感を得ることができます。今の子供たちは目まぐるしく変わる環境や、予期せぬ問題に直面しながら生きていかねばなりません。そういうときに自分で道を切り拓いていく力が必要です。それは小学生の頃から学んでおいて損はないと思います。
――子供たちはどう変わりましたか? 成長したなと感じることはありましたか?
大きく変わったと感じるのは物怖じしなくなったことです。主張が苦手で慎重な子供たちでしたが、まずはやってみて、そのなかで修正や改善を繰り返し、自分たちの理想のものへ近づけていこう、というような行動変容がありました。例えば動画を撮影してみたら、思ったよりも早口だったり声が小さかったりして聞き取りづらい。それならばもっとはっきり聞こえるようにと撮り直しました。ポスターも最初は言いたいことを全部入れようとして、何が伝えたいのか分からなくなってしまったものを、宣伝のプロのアドバイスを受け、よりメッセージが伝わりやすいものに修正するなどしました。
ポスターについても、最初は4案から1つに絞る予定だったのですが、話し合いの結果3案を採用し、それぞれを適した場所に掲示するという結論を子供たち自身が決めました。これまで、どちらかというと教師の“指示待ち”が多かった子供たちが、このような結論を導き出したことに驚きましたし、成長を感じました。
――環境問題への意識はどう変わりましたか。
海プラ問題をより身近なものと感じるようになりました。例えば給食の時間に使ったストロー袋など、小さなゴミにも気づくようになったと話す子もいます。ポイ捨てをしている意識はなくとも、何かの拍子で飛ばされて出てしまうゴミがあるという現状に気づき、だからこそ日々の生活のなかで気をつけることが大事、という気持ちが芽生えてきていると思います。
また学習すればするほど、簡単に解決できない問題だという気づきも生まれています。
ある子は「この問題は6年生になっても、中学生そして大人になっても考え続けていかないといけない」と言っていました。調査や、情報発信という実践的な活動に達成感を感じつつも、正解のない問題があるということ。そしてそれにチャレンジすることの大切さを、このプログラムを通じて理解したのではないかと思います。
プログラムを“ベース”にできる
――中山先生ご自身は、このプログラムを通して学びはありましたか。
これは今回のプログラムに限らないのですが、やはりその道のプロの存在が重要だと思うことが多々ありました。例えば、実際に和歌山の海洋ごみの調査をしている環境アドバイザーの先生や、花王の方から、直接子供たちに語りかけていただいた方が、はるかに伝わっているなと感じました。外部の方と教育の目的を共有して、一緒に子供たちを伸ばしていくというのが重要であると考えています。
また今回の取組では、特に動画やポスターの制作において、自分でも知らなかったことが多く、情報発信をするときに大事にしなければならないポイントなどを学ぶことができ、私自身も楽しかったです。
――このような「探究型プログラム学習」というのは、どのようなメリットがあるのでしょうか。
プログラム学習の大きなメリットは、子供たちへ一定の学びを保証できることだと思います。プログラムがあることで、教師の経験年数や授業デザインスキルに大きく影響されず、子供たちへ学びを提供できるきっかけになると思います。プログラムという“ベース” があるから、アイディアを加えて発展させていくこともできますよね。
また探究学習という意味でも、このようなプログラムはとても有効だと考えています。近年、教育界では「個別最適化」ということが言われていますが、教師側が個に応じた指導を行うだけではなく、子供側が自分にとって最適な学習にしながら学習を進めていくことも重要です。総合的な学習の時間は、「個別最適化」や「探究」が実現しやすい学習だと思います。そのような意味でも、子供が自分で考えながら、自分で学習の方法や道筋を決めながら学べる良いプログラムであることが大事だと思います。
さらなる発展を目指して
――1年間の取組を経て、改良ポイントや今後の展開などは考えていますか。
はい、いくつか考えています。まず1つはSDGsの相互関連について。海洋プラスチックごみ問題を取り上げた今回のプログラムは、SDGsの14番「海の豊かさを守ろう」を意識した実践ですが、12番の「つくる責任 つかう責任」や17番「パートナーシップで目標を達成しよう」とも繋がっています。そのあたりをもう少し色濃く出していきたいです。
もう一つは他教科との連動です。国語の授業で「海洋プラスチックごみ問題について意見文を書こう」などテーマを連動させながら、他の教科等の力もつけていくことができるのではないかと思っています。
さらに2021年度からは「GIGAスクール構想」が本格化し、1人1台タブレットやPCを使う時代がやってきます。こういった機器を上手く活用しながら、学習プログラムをよりよいものにしていきたいと思っています。
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